『くすり』として認められるためには国(厚生労働省)に申請して承認を得ることが必要です。まず、たくさんの『くすり』の候補の中からで、試験管の中での実験や動物実験を実施して、病気に効果があり、かつヒトに使用しても安全と予測されるものだけが選ばれます。
この『くすり』の候補を用いた開発の最終段階では、本当にヒトの病気に対して効果があるかどうか、また安全かどうかを科学的に調べるために、どうしても実際の患者さんに協力していただいて試験を行うことが必要となります。ヒトにおける試験を一般に「臨床試験」といいますが、このように『くすり』の候補を用いて国の承認を得るための成績を集める臨床試験は、特に「治験(ちけん)」と呼ばれています。
こうして治験によって得られた成績を国が審査して、病気の治療に必要で、かつ安全に使用できると確認されたものが『くすり』として承認されるのです。
ひとつの『くすり』が世の中に誕生するためには、9~17年の歳月と200~300億円の費用がかかり、『くすり』の候補から実際に処方できる『くすり』として承認される割合は約10000分の1といわれています。
なお、治験は例外を除いて次のような3つの段階に別れています。
治験の最初の段階で健康な成人ボランティア(通常は男性)に対して薬を使用して、体にどのように薬が吸収され排泄されていくかということや安全性などを調べるものです。※この試験は、当院では実施しておりません。
比較的少数の患者さんに薬を使用していただき、効果と安全性と併せて薬の使い方(薬の量や使用方法)などを調べるものです。
多くの患者さんに参加していただき、現在使用されている薬との違いや長期間服用していただいた場合など、実際の治療に近い形での効果と安全性を確認するものです。
治験は「安全に実施すること」に最も重点をおいています。このことは国(厚生労働省)が定めたルール(医薬品の臨床試験の実施に関する基準:Good Clinical Practice;GCPといいます)と国際的なルールの中に、患者さんの人権・安全性を守り、科学的に適正に実施しなければいけないと定められています。
通常の治療 | 治 験 | |
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病院・薬 | どこの病院でも、承認を受けたお薬を治療のためにもらうことができます。 | 指定の病院でのみ、これから承認を受けるお薬を、試験(研究)のためにもらうことができます。 |
医師 | 主治医でなくても診察します。 | 決められた治験担当医師が診察します。 |
検査等 | 保険診療内で実施します。 | 有効性・安全性確認のため通常より多くの検査を実施します。 |
費用 | 健康保険により定められた金額を支払うことになります。 | 治験薬服用期間中は、治験薬代、検査代を支払うことはありません。
交通費が支給される場合もあります。 |
治験は、科学的な方法で、参加される方の人権を最優先にして行われます。治験に参加するかどうかは、患者さんの自由意思で決まります。治験に参加することを強制されることはありませんし、参加を断っても一切不利益を被ることはありません。また、一度治験に参加することを同意しても、いつでも、どんな理由でも参加を取りやめることができます。治験参加の同意の意思は文書で確認することになっているため、同意書に名前を書くと途中でやめることができないのではないかと心配される方もいらっしゃいますが、決してそのようなことはありません。
患者さんの「自由な意思」にもとづく文書での同意を得た後でないと治験は始められません。その同意を得る際には、治験担当医師及び治験協力者は患者さんに対して治験に関する十分な説明が必要です。この「説明と同意」のことを「インフォームド・コンセント」といいます。この「インフォームド・コンセント」は、治験を開始するために最も重要なポイントです。説明しなければならない項目は、治験の目的、治験薬の使用方法、検査内容、参加する期間、期待される効果と予想される副作用、治験への参加はいつでもやめることができ、不参加の場合でも不利益は受けないことなど、GCPのルール上に規定されています。
また、患者さんのプライバシーは完全に保護されています。製薬企業の方が試験経過の確認のために診療録(カルテ)を閲覧することがありますが、治験に参加している患者さんの情報が外部に流出することは決してありません。
通常、患者さんに対して実施する治験(第II相試験・第III相試験)では、治験に参加される患者さんの様々な負担(通院の交通費や昼食代など)を軽減する目的で負担軽減費(金額は病院によって異なります)をお支払いすることがあります。また、治験に参加した場合は、「治験薬の費用」や「治験薬を服用している期間内に必要とする検査の費用」及び「治験薬と同じような働きをする薬の費用」は支払う必要がありません。このため、窓口でお支払いいただく自己負担額が少なくなることがあります。
一般的なメリットとデメリットは以下のようなことがあげられますが、個々の治験によって、あるいは個人個人によって、また病気によっても異なります。もちろん、治験に参加するかどうかは、あくまでも患者さんの自由意思ですから、その治験に参加することのメリットとデメリットをよく検討していただいた上で判断して下さい。
①その病気に対する経験豊富な専門医師による丁寧な診察を受けることができ、通常の診察や検査より詳細な検査を受けることによって、病気の状態を正確に知ることができます。
②治療法がなかったり、現在の薬では不十分な点がある場合に、新しい治療方法を受けるチャンスが与えられることもあります。
③治験に参加することによって、治療に対する情報が蓄積されて、同じ病気で苦しむ多くの方々への「情報の贈り物」をすることになります。
④診療費用の負担が軽減される場合もあります。
①未知の副作用が発生する可能性が否定できません。
②正確な服薬や来院が求められ、病気によっては日誌や記録を付けなければならない場合もあります。
③検査によっては、通常より多くの時間がかかったり、採血量が増えたりすることもあります。
④特定の病院でのみ実施しているため、現在通院している病院から変わることが必要となる場合もあります。
「治験薬の安全性」には、最大限の注意が払われています。まず、治験開始時から治験終了時まで、詳しい検査や十分な診察が行われます。また、治験に参加されている途中に、他の患者さんで見られた副作用などについて説明され、患者さんの治験への継続参加の意思が確認されます。治験に参加して少しでも「おかしいな」と感じた場合には、主治医や治験に関連するスタッフに相談してみて下さい。万が一、副作用が発生した場合は、すぐに適切な処置をします。不幸にして副作用による障害が残った場合は、補償や賠償が受けられます。
また、治験に参加する際に渡した文書には、副作用について細かく説明してありますので、解らない点があれば何でも質問してください。予測される治験薬の副作用の種類や頻度についても、十分理解していただいた上で治験に協力していただければと思います。
なお、現在承認されて使用されている薬にも必ず副作用がありますので、治験薬以外でも、それぞれの薬の副作用を知ることは大切なことです。
医師以外にも治験に関わる職種が病院内にいます。特に、薬剤師や看護師などがクリニカル・リサーチ・コーディネーター(CRCとも呼ばれます)という院内の治験専門スタッフとなり、治験に関わるチーム内の調整、患者さんへの同意説明補助、医師の治験業務のサポート、患者さんの来院スケジュール調整や患者さんからの相談に応じる業務などを行い、治験が安全・円滑に実施されるように活動しています。当院にも、薬剤師CRCと看護師CRCがいます。また、多くの書類の管理、契約担当など事務的な対応の担当者や治験薬の管理者もいます。